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奇形カエル 早稲田大学・教授 中村 正久 教育・総合科学学術院・生物学教室 大学院先進理工学研究科・生命理工学専攻 私の研究室では、両生類(カエル)の性決定及び性分化の仕組みを分子・細胞・組織学的手法を用いて解明しています。古来より、生物は有性或いは無性生殖という2つのシステムのいずれかまたは両方を採用することによって種を保存しています。個体の性が雌雄どのようにして決まるかということは人々の多くの関心事であったにも関わらずその仕組みは未だ不明です。性決定の後に起きる生殖腺の分化を性分化といいますがその機構も不明です。性決定から性腺分化の完了までは大きく3つの段階に分けることができます。第1段階は遺伝的な性決定(受精時の性染色体の組合せ;XX、XY或いはZZ、ZWの組合せ)、第2段階は生殖腺の性決定(未分化生殖腺が精巣或いは卵巣になるかどうかの決定)、第3段階は性ホルモンによる雌雄の確立(第二次性徴)です。脊椎動物の性は性染色体の組合せで決まるのが普通ですが、いつもそうではなく動物によって温度などの外部環境で決まることもあります。性決定及び性分化の仕組みを解明するために、哺乳類(ヒト、マウス)、魚類(メダカ)、袋形動物(線虫)及び昆虫(ショウジョウバエ)を材料として活発に研究が行われています。 さて、約40億年前の地球に生命が誕生し、長い年月が過ぎて微生物が出現しました。やがて、単細胞、多核細胞、そして多細胞生物が現れました。生物は進化の過程で無性と有性の2つの生殖システムを獲得し、両方、或いは一方の生殖システムを採用して種を維持・保存してきました。現在、地球には何百万種もの動物が生息していますが、それらの動物の性がどのようにして決まるかについては、まだ多くの部分が謎なのです。動物の性決定様式については、ショウジョウバエでは、X染色体数(♀=2X,♂=1X)と常染色体のセット数(2A)の比(♀=2X/2A,♂=1X/2A)によって決まり、1だと雌、0.5だと雄になり、その中間は間性になります。高校の教科書にはショウジョウバの性染色体の組合せはXY型となっていますが、性を決める上でY染色体は関係ありません。魚類は、受精時の性染色体の組合わせで決まる遺伝様式に加え、大きい方が必ず雄になるというような魚(ホンソメワケベラ)、温度によって性が決まる温度依存様式を採用している魚(ヒラメ)、また、性ステロイドホルモンで性が転換する魚もいます。魚はいろいろな性決定様式を採用しているとても面白い動物群です。両生類では、種によっては性ステロイドホルモンによって性が転換する場合がありますが、性染色体の組合せで決まるのが一般的です。温度によっても性が換わりますが、自然条件とはかなりかけ離れた低温や高温に長時間曝す必要があります。爬虫類のカメ、トカゲ、ワニでは卵の孵化温度(僅か数度の違い)で性が決まるという極めてユニークな温度依存性決定様式を採用しています。しかし、同じ爬虫類でもヘビ類は遺伝的性決定様式を採用しています。鳥類では性染色体の組合せで性が決まる場合が一般的です。哺乳類では、温度や環境などの外部要因で性は決まらず、受精時の性染色体の組合せで決まります。このように動物の性の決定の仕組みは様々なのです。面白いとは思いませんか? 最近、地球の環境は大きく変化してきました。森や林がなくなることによってそこに住んでいた多くの動物は住む場所を失ってきました。これによって動物の数や種が減りましたが、このことによって多くの種の絶滅が危惧されます。私が子供の頃にはそこら中でカエルの声が聞けたのです。しかし、近頃はカエルの鳴き声を聞く機会がめっきり少なくなりました。明らかに、カエルの数が減っているのです。世界的に見ても各地でいくつかの種が絶滅しています。さらに悪いことに、奇形カエルを多く見かけるようになりました。奇形の原因を特定することは非常に難しいのですが、ひとつの要因は農薬などの化学物質による環境汚染と考えられています。北米大陸でも多くの奇形カエルが発見されていますが、その発生状況はここ(クリック)で即座に知ることができます。 私は、インターネットを通じて国内における奇形カエルに関する情報を集め、環境汚染との因果関係を明らかにすることによって野生種の絶滅や生息数の減少を防止したいと考えております。関東近辺における奇形カエルの発生状況をこのホームページに掲載しました。しかし、我々だけで集められる情報は充分ではありません。全国各地の方々から情報を提供していただければ、多くの情報が集まり、より確実な奇形カエルの発生状況が把握できます。それによって近い将来、カエルの絶滅や生息数の減少がどのような仕組みで起きるのかを解明することができる可能性があります。また、私の研究テーマである両生類の性決定及び性分化にどのような環境汚染物質が影響を与えているのかも分かる日が来ると思われます。 これから本格的な冬を迎えますから沖縄や南西諸島以外ではカエルの姿をみることはできませんが、春になったら身近の生き物に目を向け下さい。そして風変わりなカエルを見つけたらそのカエルについての情報をお送り下さい。皆様からの情報をお待ちいたしております。 � 2005 MASAHISA NAKAMURA. All
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